【坐禅唱題の記述】

 何事をするにも精神統一は先決問題である。
 そのために坐禅、狭い牢内で健康を保つのも坐禅、唱題の基本姿勢は坐禅、真理を究明するにも坐禅、見聞せる教を我が身に消化せんとすれば坐禅だ。聖一国師の言も借りて見る。「諸法は皆、此門より流出し万行も亦此道より通達し、智慧神通の妙用も此中より生じ性命も此中より開けたり。諸仏己に此門に安住し、菩薩も亦行じて此道に入る。乃至小乗及外道も行ずと雖も未だ正確にならはず。凡そ顕密の諸宗も此道を得て自証とす」と大いに坐禅を礼讃してある。
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 「世の中にハング村以上に悪い世界はないと思うたらその下があった、当棟の者は絶対入院無用」ときた。薬も病の状況に合うようなものは仲々与えられない。そのまま移行すれば間もなく牢死あるのみだと自他共に感ぜざるを得ぬ事になった。
 よしっ、友情一本で彼を救うて見せる。禅観と私の下手ながらの指圧に頼るつもりになったのである。
 早々C中尉に願うて許可書を得た。第一日来室した彼は殆んど坐する事が出来ん亡者の如く毛布を肩にかけて壁に寄り掛かったまま十五分も坐禅をつき合うたけれども苦しかったらしい。私は側で坐禅唱題しつつ彼のために熱祷を捧げた。
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