妻への遺言

 
(前略)そなたは先日の面会日には、三時間も当所に居て、面会時間外に少しでも私の近くに居る気分を味わって呉れたとの事、何と言う優しい気持ちでしょう。結構々々、私は誠に有り難い気持ちで一杯です。それに今日の知らせは無情であったね。でも単なる感情に負けないで私の以上書いた気持や、平素から書き送って居た事を、よく消化して、強く生きてくれよ。
 国家民族が弱って居る時だ。根幹の人迄が参ってはならぬ。 御曼荼羅の前で何時でも私に会えます。此所で青年を教える事も中止だから、主力を以てそちを御見舞しましょう。
 唯だ飽く迄も夫の心は仏の御受用だと信仰しなさい。そして其本仏も信仰の人には常に自身と一緒です。
 御曼荼羅で思い出した。河合先生の山積した書類が花山師時代に当所に来て居たのを、今日田島師が始めて引出して下さった。当時故障があったのか、花山師が何かの理由で私に渡さなかったのか、河合先生には相済まぬ事をした。丁度、書を四冊差入れられた時の物だ(その四冊は五棟の青年に残してやったから、留守にはもどるまい)。
 そなたも強健でなかったのだから、どうか私の強い業力を支柱にして丈夫になってくれ。私に代わり老母を見て頂かなくてはならず、若い夫妻の指導、就中孫嬢には絶対必要なそなたですから。
(温子さんへの遺言/220頁)